水墨画の伝統継承と様式創造     王俊宇瀟

 水墨画で云う伝統は、大凡二つの要素が考えられる。一つは自然万物に対する感受と悟りを基に生まれた水墨画独特な美的センスと美に対する思考や理想、その美を通じて作者自身或は鑑賞者の精神的昇華を目指し、つまり思想的精神的な伝統である。もう一つは、水墨画を制作上必要不可欠様々な技法手法、或は鑑賞習慣といった、技術的習慣的伝統である。
 
 思想と精神の伝統を継承する為には、優れた水墨画作品を数多く鑑賞する事で美の心を養い、又は古典の芸術理論や文学及び哲学など幅広い読書を通じて美的精神を更に深く理解することが求められる。
 技術と様式の伝統伝承は、長年に亘り大量な摸写と苦心な研鑽が必要とされる。 
 
 この二つの伝統は、いずれも初心者の摸写勉強に止まらず、新しい水墨画作品を創り出すに於いても、必要不可欠な要素である。優秀な伝統を知らない者は、新しい画風を切り開き、優れた作品創造も出来ないことが言うまでもない。
 しかし、今の時代にリアルに生きている限り、伝統継承で終らず、新しい様式創造に挑戦する事コソが現代水墨画画家としての存在価値や存在意義の所在ではなかろうと考える。
 
 
 しかし、伝統継承と様式創造は、制作現場から見ると、時間的に単なる前後関係ではないことを認識すべきだと思う。

 先ず、精神的伝統も技術的伝統も、その深みや豊かさを物理の分量で計る事が出来なければ、数字で表すのも到底不可能であろう。そういう意味で、全ての伝統を完璧に伝承したという人は多分この世に存在しないはずと思う。古典や伝統を習得してから創作に取りかかる、と言った様な考え方は非現実的で合理性も欠ける。古典の勉強や伝統継承は限りなく長い道のりであり、切りがないので、一生涯をかけて勉強し続けてもモノ足らぐらいであり、伝承が完璧にするまで創造が出来ないと言うなら、誰もが永遠に新しい創造の道に入れなくなるかも知れない。

 
 伝統の継承は、あくまで優れた古典に対する尊敬と謙虚の気持ちを以てコツコツ習得する長い過程であると理解しなければならない。
 同様、新しいスタイル作品の創造活動も、また長年の美的思考と素材技法の実験過程ほかならない。

 この二つの過程は、殆どの場合、優れた伝統を継承しつつ新しい創造を模索するように、両者は同時進行になる事が多いではなかろう。

 古典勉強を経験している内に、新しいモノへの好奇心や創造意欲が湧き始めるのも自然の成り行きと言える。しかし、新しいスタイルの創造がそう容易なものではあるまい、試行錯誤をし乍ら、伝統に対する反省や理解も更に深めて行く必要がある。伝統をより深く理解する事は、創作活動の強力な源になることと言える。当然のことだが、伝統を深く理解し継承するほど、新しい水墨画の創造もより厚味が増し、品格や完成共高くなる事が誰でも理解出来るはずであろう。
 
 水墨画制作の場合、伝統継承は基礎と手段である。様式創造は目標と理想である。
 手段と基礎を知らなければ目標と理想が蜃気楼に過ぎない。目標と理想がなければ、基礎と手段は無意味に見える。
 基礎手段と理想目標は、優れた様式創造に欠かせない両輪である。
 伝統継承と様式創造は、決して対立な要素ではない。完成度の高い様式創造の中で、伝統と創意が必ず自然且つ合理的に調和されている。

 そして、今日の様式創造は、明日の伝統になる可能さえある。


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